大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和31年(行モ)3号 決定

申立人 滝口万太郎

被申立人 大阪市長

主文

本件申立を却下する

申立費用は申立人の負担とする

理由

申立人は被申立人が申立人に対し計第三二三号昭和三十一年八月十一日附建物移転中の使用停止通知についてと称して土地区劃整理法第七十七条第六項の規定によると称して昭和三十一年八月十四日建築物等除却する処分並同物件の中に収容する物件及東方敷地内に存在する石材類の申立人の意思に反する処分は本案判決を為すに至るまで之を停止する既に執行した部分があれば之を回復すべきことを命ずる

申立費用は被申立人の負担とするとの命令を求めその理由として申立人は被申立人に対し行政処分取消請求行政訴訟を提起し大阪地方裁判所第四民事部に係属中で之に附随して右行政処分の執行停止命令(御庁昭和三十一年(行モ)第二号事件)を申請したところ、昭和三十一年八月七日その却下決定の送達を受けた、併しながら右決定の理由によれば全く事案の真相に反し申立人の主張しない無根の事実を創造して判断されている即ち右決定理由中には申立人が主張するように本件物件の移築除却による補償として金三百万円の交付を受くべきだと主張したとあるがこの金三百万円は本件物件に対してではなく本件物件と申立人所有の大阪市天王寺区真法院町六十八番地上物件の移築行為等を包括して被申立人の高津俊之計劃部長との間に合意せられたに拘らず被申立人は内金百万円についての合意を否認するので申立人は土地区劃整理法第七十三条により通常を受くべき損失の補償を請求中のもので之についての審判決定に至るまで物件の移築除却の執行停止を求めるものである。然るに被申立人は前記執行停止決定の送達前は申立人に対し土地区劃整理に伴う申立趣旨記載の工作物の移築を通知したに拘らず、前の停止命令申請却下決定後はにわかに態度を変更し昭和三十一年八月十一日附を以て同月十四日右工作物その他の除却を通知して来たところ工作物の移築と除却とはその意味要件を異にする却ち移築とは移転と築造を兼ねるに為し除却は工作物の客観的滅失を謂い所有者及占有者に償うべからざる損害を及ぼすもので土地区劃整理法に於ても之に対する補償額を異にし現に人が使用中の工作物(本件便所は居住者入江及南野が使用中)に付ては三ケ月の期間を定めて移築及除却の通知を為すべきに拘らず被申立人は前に大阪都市計画事業復興土地区劃整理者大阪市長中井光次名義を以て移築の通知を為しその後何等の説明をも与えることなく大阪都市計劃事業天王寺地区復興土地区劃整理施行者大阪市長中井光次名義に変更し且所定の期間を置くことなく除却の通知を為したのは法律上無効であるなお右除却の目的たる工作物の内蔵物及その敷地東方に存在する石材約二千個見当のものについては何等の手続を経ていないから所有者たる申立人の意思に反し除却し得ない筈であるから之が除却執行の停止を求めると同時に既に執行した部分の原状回復命令を求めるものであるというにある

仍て案ずるに申立人が被申立人に対する当庁昭和三一年行第五八号行政処分取消請求行政訴訟事件に付強制執行停止命令(当庁昭和三一年(行モ)第二号事件)を申請し昭和三十一年八月二日之が却下決定あり同月七日申立人に対しその正本の送達のあつたことは申立人の主張自体に徴し明であるそして右却下決定によれば申立人は申請理由として本件便所が現に使用中であることその他の工作物にはセメント並工具類を格納し更にその東方には移築未了の前栽用品並石垣材の石数千個を置いてありこの物件に関しては移転につき通知を受けていないこと、土地区劃整理法第七十七条によれば住居の用に供している建築物を施行者に於て移転及除却するには通知後三ケ月の期間をおかねばならぬに拘らず被申立人の為した移築の通知には右期間を置いていないから通知は無効であると主張することを記載した上裁判所は申立人の申請を理由なしとして却下したものである思うに申請事件に於ても裁判所は自ら為した決定に覊束せられるものであつて申立人が右に主張する申請理由は前の決定に包含せられ既に判断の為されたものと解すべきであるから同一の理由により再度の申立を為すも裁判所は最早前の決定と異なる裁判を為すことを得ないのは勿論である成る程申立人の疎明によれば被申立人の昭和三十一年七月十日附通知書と昭和三十一年八月十一日附通知書には発信人の表示として申立人主張の如き肩書の記載に相違あることを認め得るけれども等しく整理施行者が大阪市長中井光次であることを表示するについては何等間然するところなく該通知書を無効と解すべき理由にはならない、加之申立人が昭和三十一年八月十五日提出した追加申出書並被申請人の意見書によれば被申立人は昭和三十一年八月十四日中既に本件物件の除却行為を終了したものと認められるから本件申立はその目的を失つたものと云わねばならぬ申立人は尚除却に伴う破壊行為が残存し焼跡の釘拾ひも亦幾万の秩序維持の所以として停止命令を要請すると主張するけれども除却行為に随伴する破壊の跡は残存執行行為と云わんより既に終了した執行行為の後始末で執行者に於て当然平穏に秩序を維持すべきもので停止命令の必要を見ないと同時に既に終了した執行を原状に回復することは停止命令の目的とするところでない。

仍て本件申立を理由なしと認め之を却下すべきものとし申立費用の負担に付民事訴訟法第八十九条により主文の通り決定する。

(裁判官 藤城虎雄 松浦豊久 岡村利男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例